地域のまなざし

 吹く風の様子や雲の流れを見ると、夏から秋へと季節が回り舞台のように移ろいゆくのを実感する今日この頃です。耳を澄ませば、どこからともなく運動会の練習を思わせる行進曲や、演技で使う曲が聞こえてきます。まだまだ残暑厳しい中、熱中症や感染症に注意を払いながらの教育現場だと思います。子どもたち、教職員の皆さま、どうか無事故で健康でと切に願います。

 9月の第3月曜日は「敬老の日」です。この祝日を前後して、各地域では「敬老の集い」が行われたかと思います。かつて私が校長を務めた小学校でも、この時期になると講堂で「敬老の集い」を開催していました。そこでは、地域の代表者挨拶や民謡等の出し物のほかに、小学校からは子どもたち全員が書いた「感謝の手紙」が贈呈され、中学校からは吹奏楽部による楽曲が披露されました。
 圧巻は、吹奏楽部の演奏に合わせて場内全員で歌う、「ふるさと」の大合唱でした。ご年配の方々に目をやると、歌詞をじっと見つめながら昔を懐かしむように歌われる方、目に涙を浮かべながら声を震わせて歌われる方など、それぞれに感慨深げでした。その姿は、過ぎし日のことを懐かしむとともに、これから伸びゆく若い小・中学生に“あたたかいまなざし”を送っているように感じられました。会場全体が年齢の違いを超えて一つになり、“あたたかい思い”に包まれたのでした。この光景を見ておられた地域のある方が、私の傍に来られてしみじみと語られました。

 「校長先生、私が生まれたのは瀬戸内海にある小さな島ですが、この地域が“第二のふるさと”と思っています。だから、この地域の子どもたちはみんなかわいくて、私の孫のようです」
 「校長先生、あの笛(フルート)を吹いている子は、小学生の時にはいつも遅刻しそうでした。でも、あのように生き生きと演奏しているのを見ると成長したなと思います」
 「それと、あのトランペットを吹いている子は、小学生の時は明るく、よく笑っていました。今ではこの吹奏楽部の部長です。みんな、とても立派なお兄さんお姉さんになり、本当に嬉しいです」

 お話を聞き、私の胸中に“一筋の光”が射してきたように思えました。そして、次々と言葉が頭の中を駆け巡りました。

 ─── この方は、この地域を“第二のふるさと”と思ってこよなく愛されている。だから、地域の子どもたちの小学校から中学校までの成長過程を、ずっと見ておられるのだ。我々学校関係者は何年か経つと転勤してしまう。しかし、地域の方々はこの方のように、子どもたち一人ひとりを自分の孫のように思って、これまでも、これからも、ずっとずっと、成長していく姿に“慈愛のまなざし”を送り続けているのだ。小学校と中学校という「区切り」で見ないで、成長していく姿をずっと見つめておられるのだ。子どもに対するこのような見かたは、本来、小・中学校も持つべきではないのか ───
 ─── 一方で、小学校と中学校はそれぞれ教育内容も施設も違っており、その違いがそれぞれの特色にもなっている。とは言え、子ども自身の成長に区切りは無くて、連続したものである。そうであるなら、子どもの可能性を開花させるには、途絶えることのない地域の“慈愛のまなざし”を感じながら、小学校と中学校とがしっかりと連携することが大切になってくるのではないか。地域との“麗しい関係”“絶妙な調和”を保ちながら、教育活動を進めていくことが大切なのではないか ───

 「敬老の集い」が行われた後日、子どもたちから「感謝の手紙」を受け取ったご年配の方々から、大要、次のような「お礼の手紙」が多く届きます。

 「みなさんからのお手紙をいただき、本当に嬉しくなりました。ありがとうございました。私はこれからも、ますます元気で健康に過ごして、みなさんが立派に成長していく姿を見るのを、生き甲斐にしていきます。元気をいただき、本当にありがとうございました」

 地域の“慈愛のまなざし”に満ちた大地の上に、豊かな教育活動が展開されれば、子どもたちの可能性の花が見事に咲くのではないでしょうか。いや、咲かせなければならないと強く思います。
 爽やかな秋風に吹かれて、可憐なコスモスの花が揺れています。コスモスの花言葉は「調和」です。

 ~ 「今居る場所こそ我がふるさと」との思いで、立ち向かい乗り越えていこう!と、心に期す日 ~ (勝)

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