探究心

 猛暑が続いていますが、地域によっては、夏の終わりを告げるヒグラシの鳴き声とともに、秋の七草の一つであるオミナエシが咲き始めました。夏休みも終盤にさしかかっています。この時季になると、私が小学校高学年の担任をしていた頃の、ある子のことを思い出します。

 夏休みには、子どもたちが学びを深めるための自由研究があります。当時の子どもたちの自由研究と言えば、昆虫標本や箱庭、紙工作などが多かったのですが、その子は「カビの研究」を行ってきたのです。
 その作品(研究資料)は、真っ白な食パンを放置し、表面が青カビいっぱいになるまでの様子を写真で示したものでした。私はそれを目にした瞬間、「あっ、これはすごい!何と斬新な発想か!」と思わず声をあげたことを、今でも鮮明に覚えています。食パンの変化を毎日カメラで撮り、何十枚にもなった写真を時系列に並べて貼られた作品は、それまで見たことがないものでした。ひときわ異色だったためか、私はとても興味深く感じました。

 「どうしてカビの研究をしようと思ったの?」
 「家で食パンを食べようとしたら、パンの表面いっぱいにカビが生えていて、食べることができなかったんです。ものすごく悔しいと思いましたが、その様子を見ているうちにカビのことをくわしく知りたくなり、記録して研究しようと思ったんです」

 大人の感覚からすると厄介で嫌われるカビですが、この子にとっては興味が湧くものだったのです。調べて研究してみたいと思った、子どもの探求心の素晴らしさに私は驚きました。

 2学期最初の学習参観日───。子どもたち全員の自由研究が、教室の背面に掲示されていました。異彩を放つ「カビの研究」には、多くの保護者の目が“くぎ付け”にされました。
 すべての子どもには素晴らしい力が備わっていると、私は常々思っていました。いろいろなものを素直に「きれいだな」と受け止める感性、「私はこう考える」というその子ならではの発想、興味を引かれれば「もっと知りたい」と思う探求心などです。そして、私は「カビの研究」に出会ったことで、それまでの思いが確固たるものになったのです。
 『昆虫記』で知られ、昆虫の行動研究の先駆者であるジャン・アンリ・ファーブル(1823-1915)や、今の連続テレビ小説で取り上げられている植物学者の牧野富太郎(1862-1957)のように、子どもの頃の好奇心・探求心が萌芽となり、後に実を結んで歴史に名を残した学者も多いのではないでしょうか。

 私が担任をしていた当時、どちらかと言えば「記憶力」「理解力」を重視し、点数で数値化して子どもたちの学力を捉える傾向が強くあったように思います。もちろん、これらの数値での評価にも大切な側面がありますが、数値化しにくい「発想力」「独創力」「直観力」「探求力」等も、学力の一環として捉えることが大切ではないかと思っていました。
 2020年度からは新学習指導要領がスタートし、数値化しにくい側面も評価する方向に舵が切られています。しかし、具体的にどのような場面で、どう評価するのかなどの課題が多くあると感じています。現場のご苦労もいかばかりかと思いますが、どうか一歩ずつ前進していければと願うばかりです。
 一方で、数値化しにくい力の育成を考えるとき、義務教育9年間という長いスパンで見ていくことも重要だと思います。小学校から中学校へと“学ぶ環境”や“学ぶ内容”が変わっても、子ども自身の“成長の過程”を途切れさせてはらないと痛感するからです。小学校と中学校が実のある交流を図り、子どもたちをあたたかく包み込む“麗しい小・中の連携”を、より確実かつ着実に進めていければと考えています。

 もくもくと膨れ上がる入道雲を見ていると、まるで、子どもたちの秘められた可能性が湧きあがり広がっていくようです。「学びたい!」「強く大きくなりたい!」「成長したい!」との声が聞こえてきそうです。

 ~ 「教職員の皆さま、2学期も心身ともにご健康で!」と、願う日 ~  (勝)

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