誰かがあなたを待っている

 厳しい寒さの冬を乗り越えて、桜が開花し始めています。コロナ禍でさまざまな制約が課され不自由な思いをされても、歯を食いしばって乗り越え、勝ち越えてこられた教育現場の皆さま方のようです。今年度も、あと数日で終わろうとしています。本当にご苦労さまでした。お疲れさまでした。
 今年度をもって退職される方、新たな立場に昇任される方、また、他の学校に転勤される方、引き続き同じ職場で勤務される方・・・。状況はそれぞれかと思いますが、全ての方にとって、“心機一転”の気持ちで新年度を迎えられることを願っています。
 一方、止むに止まれぬ事情で休職されている方、人知れずに黙々とリハビリに励んでおられる方・・・。今は、厳しい冬のような”現実の壁”が立ちはだかっているかも知れませんが、試練の時を乗り越えれば、“桜花爛漫の春”を迎えることは間違いありません。どうか、負けないでと、心から熱いエールを送ります。

 前回のコラムで、かつて私が小学校校長だった頃の卒業式にまつわる出来事をご紹介しました。学校長式辞では、「いつか、どこかで、君たちを必要としている人がいるのです。君たちを待っている人が、間違いなくいるのです」と卒業生に語りかけました。実は、このことは、私たち大人にも当てはまると思ってきました。
─── 今の苦しみ、悩みにはすべて意味がある。いつか必ず巡り合う、また、どこかで私を待っている人のために、この苦しみ、悩みはあったのだ。自分自身がこの壁を乗り越えることができれば、今度は同じ苦しみ、悩みに直面した人に励ましをおくることができる。今はわからなくても、そう思える時がきっと訪れる ───
長年、教育現場で汗を流してきてつくづくそう思えるのです。

 『僕の前に道はない 僕の後ろに道は出來る』(注1)

 これは、高村光太郎著作の詩「道程」の一節です。私はこの詩を通し、「今直面している苦しみや悩みを乗り越えた後にこそ、自分の道はできる。自分の人生が見えてくる」と捉えてきました。つまり、困難な状況は自身を深めるために必要なものであり、それを乗り越えることで、”誰か”と共に悩み、共に成長していけるようになると思ってきました。この、自分は”誰か”とつながっている、関係づいているというのが、私の一貫した人生観です。そして、子どもたちに“生き抜く勇気”を教え、指し示す立場の教育現場の方々には、この人生観を持ってほしいと痛感するのです。自分だけでなく、世のため人のためを追求する人生観を持つことが、混迷の度合いを増す今の世の中で必要なのではないでしょうか。
 このような人生観を持つと、不思議なことに、眼の前の壁に立ち向かう勇気が湧いてくるのです。そして、壁の向こうに希望を感じるのです。実に不思議です。

 さまざまな苦しみや悩みに直面し、歯を食いしばって懸命に生きている方・・・。そのご苦労は、必ず報われると確信しています。そのことが自身を高め、必ず誰かのためになる時が来ると信じます。どうか、負けないで!負けないで!

 道端のコンクリートの裂け目から、ひっそりとスミレの花が咲いていました。人知れず咲くスミレですが、その奥に秘められた「力強さ」を感じます。スミレの花言葉は、「誠実」「希望」です。

 ~ 「寒さにふるえた者ほど太陽の暖かさを感じる。人生の悩みをくぐった者ほど生命の尊さを知る」(注2)の言葉が響いてくる日 ~  (勝)

(注1)「高村光太郎全集 第十九巻」 高村光太郎 著、筑摩書房、1996年5月発行、24頁から引用。
(注2)「世界名言大辞典」 梶山 健 編著、明治書院、1997年11月発行、213頁から引用。米国の詩人 ウォルト・ホイットマンの言葉。

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