各地で桜の便りが聞かれる頃となりましたが、教育現場の年度末は、何かと忙しい時期でもあります。特に、人事異動で他校への転勤が決まった方にとっては、卒業式、修了式を終えても息つく間もないものです。
それは、私が新任教員として勤めた学校で、自身初めての転勤を迎えようとしていた3月末のことです。6年生担任として無事に卒業生を送り出しましたが、卒業まではとても多忙な毎日となっていました。そのため、卒業式を終えても多くの仕事が残っており、教室で一人、残務整理に汗を流していたのです。“あと数日でこの教室、この学校ともお別れだ。でも、なかなか残務整理が終わらない”という焦りの心境で、朝早くから仕事に没頭していたのです。ところが、こんな忙しい時であっても卒業生が教室にやってくるのです。
「先生、遊びに来たで。何してんの?」
と、のんきな声で話しかけてきました。彼らにとって中学校入学までは、“しばしの安らぎの時期”であるわけですが、私にとっては貴重な仕事時間であったため、“なぜ、今来たの?”という気持ちになったのです。でも、顔は笑いながら、
「いやあ、よく来たね。先生は今忙しいので、仕事をしているからね」
「はーい、先生も忙しいんだな。そうそう、卒業する前、先生の帰る姿を僕のお母さんが見ていたよ」
「そうなの・・・」(仕事をしながら、耳だけは声を聞いていました)
「先生が大きなカバンを抱えて、疲れた顔で帰っていたと言っていたよ。でも、そのカバンには、僕たちの日記帳が入っていると言ったよ。そう言うとお母さんは、“とてもいい先生が担任で卒業できて良かったね”と言っていたよ」
「先生も嬉しいよ。お母さんによろしく伝えておいてね」
「毎日長い返事を書いてもらい嬉しかったです。ありがとうございました。僕たちもそう思います」
当時の私は、子どもたちに日記指導をしていました。全員分で約40冊。半分の子どもの日記を持ち帰って明日返却、同時に残りの半分の子どもが家で書いてくるというやり方でした。これが結構大変な作業で、毎晩日記帳への返事書きに追われる中、“もうやめようか”と思ったことがしばしばでした。
新任教員としてスタートした学校であったため、自分なりに一生懸命にしていたのですが、仕事や人間関係で悩んだことも多くありました。そんな時に相談した先輩から、次のようなことを言ってもらったことが思い出されます。
─── かっちゃん(当時、私はこう呼ばれていました)が、子どものために一生懸命に頑張っていることは良くわかるよ。ただ、そのことが周りの人に評価されないので、悩んでいるんだね。でも誰がどのように評価しようと、“子どものこと第一に、流した汗”は、きっと誰かが見ているものです。“お天道さまは見ているよ”という言葉があるね。昼は太陽が、夜は月や星が見ている・・・。そう思うんだ。人の評価も勿論大切だが、“子どものこと第一に、流した汗”は、いつかきっと報われる時が来るよ ───
毎日、身を削るようにして書いた日記の返事。そのことによって、お母さんや子どもたちから、“ありがとうございました”との気持ちを聞くことができ、私の心の中は、“やったあ!これまでの苦労が報われた。日記指導をして良かった”との心情が込みあげてきたのです。“お天道さまは見ていた”との心境になり、卒業して遊びに来た子どもを前に、心で嬉し泣きしたのが昨日のことのように蘇ってきます。そして、この日記指導で”子どものこと第一に、流した汗”は、後に教頭でありながら6年生の学級担任を兼務した時の日記指導や、校長として週案(週指導計画案)での職員への返事を書くことに生きてきたのです。
年度末のこの時期、学校においては、人事異動だけでなく人事考課や来年度の校内人事等で、思い悩むことが何かと多いものです。しかし、「“子どものこと第一に、流した汗”は、きっと、誰かが見ているものです。“お天道さまは見ているよ”」の言葉を、今この時だからこそ、噛みしめたいものです。
今年度、本当に、本当に、お疲れさまでした。また、退職された方、長年のご勤務ご苦労さまでした。そして、新年度も、どうか心身ともにご健康でと、心からお祈りいたします。
~ 今年度、本当にお疲れさま。
新年度も、ご健康で!お元気で!と、祈り願う日 ~ (勝)