絶妙な関係

 桜花爛漫の季節から新緑が輝く季節へ・・・。新年度が始まり、早や1ヶ月が過ぎようとしています。教育現場の方々は、季節の移り変わりを感じる余裕もないくらい忙しい日々を送られていることと思います。私はこの時期になると、若かりし教員時代の出来事を思い出します。

 それは、4月初旬の学年打合せ(通称「学打がくうち」)をしていた時のことです。年度始めのため、1年間の学年方針や役割分担等について協議を行っていました。私は打合せメンバーの中で最も若かったため、学年主任やベテラン・中堅の方々の話をただじっと聞いていました。話し合いは着々と進んでいるかに思われましたが、その途中です。中堅の方の意見に対して、ベテランの方が違った意見を言われたのです。みんなが、”子どものため”という意識のもとで学年として協議していたのですが、その時は”何か噛み合わない雰囲気”が流れたのを感じたのです。おそらく、お互いに相手を理解し合えてなかった部分があったからだと思うのですが・・・。

 そして、その年の夏休み明けだったと記憶しています。下校後、この学年の一人の子が家に帰ってこないという電話が、保護者からかかってきたのです。早速、学年の先生で手分けして、心当たりの場所を探しに行こうということになりました。その際、中堅の方が学年主任の了承のもとでリーダーシップを発揮したのです。校区内地図を広げ、子どもが立ち寄りそうな場所に赤丸をつけ、地図全体をいくつかのエリアに分けました。各エリアに担当者が割りあてられると、私たちはすぐに捜索に向かいました。その結果、無事に子どもを見つけることができたのです。
 若い私は、この時の中堅の方のてきぱきとした迅速な判断・指示と、学年の先生方の見事な連携プレーに大いに感嘆したのを覚えています。

 この出来事によって、年度始めの“何か噛み合わない雰囲気”が、一変して“心が通い合う関係”になりました。子どもの命を守る、即ち“子どもの安全第一”という強い気持ちが、学年の先生方をひとつにまとめる“中心軸”になったのだと、後になって分かりました。
 その後、運動会や作品展と2学期は大きな行事が目白押しでしたが、学年主任のあたたかい見守りのもと、中堅の方がプランを立て、ベテランの方がフォローし、若手が率先して体を動かすというパターンが出来上がりました。このように、私の学年はベテラン・中堅・若手の「絶妙な関係」を築けたことで、ひとつひとつの行事を見事にやり遂げました。

 この経験は、その後、私が管理職になった時に生きました。教職員の資質向上の取組を、「ベテラン・中堅・若手の絶妙な関係構築」を掲げることで推進することができたのです。
 ここで言う「絶妙な関係」とは、教員一人ひとりの特性や持ち味を生かしながら、同じ方向を向いて歩んでいく関係と捉えています。一人ひとりの特性や持ち味のみの重視では、ばらばらな関係になります。また、個人の考えがなく全員が“右へならえ”では、画一的で成長・発展しない関係になります。成長・発展し続けるには、“子ども第一”を中心に据えて皆で共通の目標を持ち、それぞれの考え方をバランスよく絶妙にコントロールしながら関係をつくっていくことであるとの思いに至りました。

 この「絶妙な関係」は学年のみならず、全教職員の集団にも大切であるのは言うまでもありません。そして、全教職員の「絶妙な関係」は、保護者と地域の方々へも波及していくことになります。つまり、子どもを包み込む教育環境(学校・家庭・地域)が「絶妙な関係」でつながっていくことになるのです。
 私は職務を退いた今でも、「絶妙な関係」のつながりが成長・発展し続けていることを気づかされます。かつて、職場で子どものために共に汗を流した教職員の皆さん方と、また、保護者・地域の方々と今でも便りを交わし、互いに励まし合いながら成長させていただけることに、嬉しさで胸がいっぱいになります。

 退職前に、先輩からいただいた次の言葉は、今でも鮮明に覚えています。
── 人としての本当の魅力というのは、退職後、社会的な肩書がなくなり“生身の人”となった時に、友人が何人いるかで分かるよ。その友人こそが真の友人であり、君の人としての魅力の表れだよ。さらに退職してからもなお、“人として成長”することがとても大切なんだ ──

 コロナ禍が長期化し、まだまだ先が見えない状況が続きますが、「絶妙な関係」はこの状況を切り拓いていくキーワードのひとつであると確信を深める昨今です。みんなで「絶妙な関係」を築きながら、希望に向かって、日々の現実を乗り越えていきたいものです。

 ~ “心をひとつにして、さあ、出発だ!” と、声援を送る日 ~  (勝)

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