続・ルビコン川を渡る

 前回のコラムで、私が小学校担任の頃に先輩から教わった「ルビコン川を渡る」ということと、担任時代の“真の覚悟”について述べました。それを受けて今回は、私が管理職になってからの“真の覚悟”について述べさせていただきます。ただ、経験から導き出した私見であることをお許しください。

 教師が変われば、授業が変わる。授業が変われば、子どもが変わる。転じて、教職員が変われば子どもが変わり、保護者・地域が変わる ─── ゆえに、管理職としての私の責務は、教職員の方々を元気にすることであり、励ますことであると決意していました。

 担任時代に自らを定めた、その子の人生を”背負っていこうという覚悟”の姿勢は、管理職になってからも生きてきました。私が管理職になって真っ先に思ったことは、「職員室が私の教室であり、教職員が私の子ども(失礼な表現で申し訳ありません)である」という姿勢だったのです。

 もちろん、教職員の方々の人生を生涯にわたって背負えるわけではありませんが、そのような心構えを持って接することで見えてくることが数多くありました。何気ないしぐさや言動から、ちょっとした変化にも気づけるようになったのです。それは、廊下ですれ違う際に交わす短い言葉であったり、週案のコメント等から、教職員の方々の“背景を読む”ことにもつながりました。

 さて、管理職になってからの“真の覚悟”、すなわち教職員の方々の人生を”背負っていこうという覚悟”と言っても、具体的にどんな行動を起こしたらいいのか・・・。それは、「自分にとっていちばん大切なものを、教職員のために費やす」ことではないのかと考えました。そして、「自分にとっていちばん大切なもの」とは何か・・・。それは、”時間”であるとの思いに至ったのです。

 それからというもの、朝の通勤時間や仕事が終わった後の時間、また、休日であっても時間を見つけては教職員のために悩みに悩み、思索に思索を重ねました。
 ─── あの方には、どのように接すれば元気になるか・・・。
 ─── あの方には、今何が必要か・・・。
 考えていると、不思議なことに日常生活の中からそのヒントが浮かんでくるのです。本当に不思議なほど、いろいろな「励ましの仕方」が生まれてきたのです。

 テレビを観ている時の一場面や、買い物をしている時のまわりの光景。また、本を読んでいる時に心動かされる文章や、近所の方とおしゃべりしている時の会話等々。思わず、「これだ、この言葉が、あの人にはぴったりとあてはまる!」「この励ましの言葉で、きっと元気になれるだろう!」と、”励ましの仕方”がひらめいたのです。

 さらに、「あの人のために」という私の思い・願いの結果としてひらめきが生まれた時、同時に私自身の心が豊かになっていくのを実感しました。本当に不思議です。「相手を思うこと」により、即、自分自身の心が自在に大きく、豊かに広がっていく・・・こんな心境になる喜びを、しみじみと感じることができたのです。これも教職員の皆さまのお陰だと、つくづくと思いました。ありがたいことです。そして教職員の皆さまとの職場での出会いは、決して偶然などではなく必然であったと、現職を退いた今でもそう思えるのです。

 「ルビコン川を渡る」とは、その人の人生を”背負っていこうという覚悟”であり、自分にとっていちばん大切な“時間”を費やすことであるとの結論にたどり着くことができました。そして行動を起こした時、自分自身も心豊かになるとともに、人との出会いの不思議さ・すばらしさを心の底から感じることができたのです。

 いまだ続いている感染症、人命を脅かす紛争、自然災害や無慈悲な事件等、心痛むニュースが毎日のように報道されています。しかし、世界が混迷の度を増している今だからこそ、職場でのあたたかな人と人とのつながりの大切さを強く思う昨今です。

 家近くの小川の堤防にも、タンポポの花が咲き始めました。立春も過ぎ、確実に春が近づいています。教育現場の皆さん、負けないで!春はもうすぐです。

 ~ 「春の小川」を口ずさむ日 ~  (勝)

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