ウィズ感染症、ウィズ災害

 残暑厳しい中でもヒグラシの声が聞こえるようになり、秋の気配が感じられる今日この頃ですが、夏休みが終わりに近づくにつれ、不安を感じる子どもが多くなる時期でもあります。純粋で敏感、まっすぐな子どもの心 ─── どうか、子どもたちがスムーズに新学期を迎えられますようにと、祈るばかりです。そんな、子どもの心を思う時、2人の子どもとのことが思い出されてきます。

 ひとつは、私が校長を務めた最初の小学校でのことです。東日本大震災が起こった直後、6年生のAさんが、大震災の被害状況を伝える報道記事を持って、私のところに泣きながら走ってきました。
「校長先生、僕の親戚の子が、東北におるねん。今、どうしているか、ものすごく心配やねん」
 と、涙声で訴えてきたのです。私はこの時、心に期しました。
─── この子は、誰かに今の自分の思いを訴えたくてたまらないのだ。この子の心からの叫びを、真摯に受け止めなければならない。そのために、被災地とこの学校の子どもたちとをつなぐ教育をしなければならない・・・。
 その後、私の思いをつないでくれた教職員の皆さんのチーム力のおかげで、岩手県・陸前高田市立横田小・中学校(当時)との交流として結実しました。当時の教職員の皆さん、そして、現在も継続しているこの交流にご尽力いただいている管理職・教職員の皆さんに、感謝の思いでいっぱいです。(注1)

 もうひとつは、私が校長を務めた2校目の小学校でのことです。6年生の社会見学で、神戸市中央区にある「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」に出かけました。館内には阪神・淡路大震災についての展示のほか、東日本大震災についての展示もありました。そこには津波映像を見るコーナーがあったのですが、Bさんはそれを見て気分が悪くなり、しばらく横になってしまったのです。私はこの子の様子を見て、申し訳ない思いが込み上げてきたのを、今でも忘れることができません。
─── ごめんね、つらい思いをさせて・・・。東日本大震災について、学校として、しっかりと学ぶようにしていなかったためだよ。これからは、こんな思いにならない教育をしていくからね・・・。
 その後、そのための取組のひとつとして、毎月11日になると”その日を忘れない”ために、「今日は、東日本大震災から〇年〇ヶ月の日です」と、子どもたちや教職員に伝えるようにしたのです。
 阪神・淡路大震災も、東日本大震災も、過去の災害として忘れてはなりません。また、遠い地域での災害として捉えてはなりません。“自分のこと”として、これらの経験から学んでいく姿勢が、さまざまな自然災害が頻発している今の時代だからこそ、より一層必要だと思えてなりません。

 毎年9月1日の「防災の日」には各校で防災訓練を行いますが、避難訓練での校長の言葉として、私はいつも次のように子どもたちに語りかけました。
 「もし、地震や台風などの災害が起きた時は、『押さない、遅れない、おしゃべりしない』という、3つの『お』が大切ですが、それ以上に大切なことがあります。それは、『どんな子とも仲良くなる』ことです。いざという時に、助け合うことが、互いの命を守るからです。『どんな子とも仲良くなる』ことは、『自分や友だちの命を守る』ことなのです」
 阪神・淡路大震災の時も、東日本大震災の時も、互いに助け合って生き延びることができたという事例が数多く紹介され、感動を覚えたのは私だけではないでしょう。いつ災害が起きてもおかしくない時代を生きていく子どもたちが、『どんな子とも仲良くなる』心情をしっかりと持つ力は、最も身につけて欲しい力のひとつだと痛感します。

 未だ収束が見えないコロナ禍に加えて、予測できない自然災害の脅威 ─── 子どもたちが活躍するこれからの時代は、感染症や自然災害とともに生きていく時代であり、まさに、“ウィズ感染症” “ウィズ災害”であるとの思いを強くする昨今です。だからこそ、我々おとなたちが経験を活かして知恵を出し合い、感染症や自然災害に負けない子どもの育成に全力を挙げたいと強く思うのです。

 ヒグラシが鳴き始めた夕暮れ時、西の空が真っ赤に染め上がってきました。“子どもたち、2学期も元気で健康に、そして、仲良く学校生活を送ってね” “教職員の皆さん、2学期もご苦労様です。どうぞよろしくお願いします”と、心で合掌しながら、鮮やかな夕日を眺めていました。

 ~ “コロナに災害に負けないで!” と、心で叫ぶ日 ~  (勝)

(注1)2021年2月9日に掲載したコラム 「3・11」 でも触れています。

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