雨が多いこの時期になると、思い出される出来事があります。私が教頭を務めていた小学校が、夏休みに入っていた時のことです。学校業務の継続や緊急時の対応に備え、校長と私は交代でお盆休みを取ることにしていました。
それは、私が出勤する日の朝のことです。天気予報で警報級の大雨が予想されていた通り、すでにどしゃぶりの雨が降っていました。普段は、私鉄でひと駅乗った後、JRに乗り継いで学校まで行きます。しかし、大雨のため私鉄は運休になっていました。
教育現場では、夏休みでも何が起こるかわかりません。この日は校長先生が不在でもあり、とにかく早く学校へ行こうと思いました。幸いにもJRは平常通り運行していたので、JRの駅まで歩くことにしました。ただ、自宅から長い坂道を下り、田んぼのまわりに住宅が点在するようなところを通って20分ほど歩かなければなりませんでした。
いざ外に出ると地面を叩きつけるような雨が、坂道を滝のように流れていました。私は足を取られないよう、緊張しながら坂道を下っていきました。やがて田んぼや住宅のある平坦な場所にさしかかったのですが、あたり一面が冠水して道が全く見えなくなっていたのです。それでも、普段も歩くところなので大丈夫だろうと判断し、「とにかく早く学校に行くんだ!」との気持ちでどしゃぶりの中を急ぎました。
その時です。突然、私の体半分が水の中に「どぼっ」と沈みました。道を歩いているつもりでしたが、道の脇を通る農業用水路にはまってしまったのです。急いでいたため、用水路への注意が疎かになっていました。必死の思いで用水路から這い上がると、息を切らしながらも、自宅に戻り着替えて出直そうかと考えました。しかし、「とにかく早く学校に行くんだ!」との強い気持ちを抑えることはできませんでした。私は腰から下がずぶ濡れのまま、JRの駅から電車に乗りました。
この時季は、車内の冷房がよく効いています。電車に乗ると、ずぶ濡れの私には身震いするほど寒く感じました。やがて服が徐々に乾いていき、下車する時には、ほぼ乾いた状態になっていました。ただ、ズボンとワイシャツがしわくちゃで、濡れたことがわかる状態でした。
やっとの思いで学校にたどり着くと、大雨にも関わらず既に何人かの教職員が出勤していました。そして、私の姿を見るなり声をかけてきました。
「教頭先生、いったいどうしたんですか?」
「私鉄が止まっていたのでJRの駅まで歩いたのですが、途中、あまりの大雨のために道が冠水し、用水路に落ちてしまったのです」
「それは大変でしたね。でも、危なかったですね。用水路に落ちたら、そのまま流されて命を落とすことにもなりかねませんよ!」
「そうですね」
「こんな時には電話してもらえば・・・。私たちが学校を守っていますので!」
教職員からいただいた言葉は冷え切ったからだを温かく包み、私の心に深く刻まれました。命を失いかねない状況への油断を反省しつつ、ずぶ濡れになって出勤したことで、人の心の温かさを肌で感じることができたのです。
私は心に誓いました。
─── このような教職員の皆さんと一緒の職場で、子どものために汗を流せることは幸せなことだ。よし!もっと、もっと、素晴らしい教頭になるぞ! ───
教職員どうしが“あたたかな絆”で結ばれているからこそ、子どもに寄り添った学校づくりができると、しみじみと実感しました。
道すがら、ひときわ美しく鮮やかにアジサイの花が咲いていました。いっぱいのアジサイの花を見ていると、まるで教職員一人ひとりが“あたたかな絆”で結ばれている学校のようです。
~ 一学期の仕上げに向けて、心身ともにご健康でと祈る日 ~ (勝)