人を育てる

 季節はめぐり、時は流れる。さわやかな初秋から気候は徐々に、秋の深まりを感じる頃になりました。日常の慌ただしさで、また、コロナ禍で緊張の日々が続くなかで、季節の変わり目すら気づきにくい今の状況ですが、自然の営みとして季節はそのリズムを確実に奏でています。しかし、“人を育てる”ことは、決して“自然に”できることではありません。教育現場にあっては、子どもを育てること。地域や組織・団体にあっては、後継者を育てること。人を育てるという尊い行いは、深い愛情と強い信念なくしては絶対にできないでしょう。

 それは昨年の3月のことです。40年間勤め上げて退職し、学生時代から何かとお世話になっている先輩にその旨を、真っ先に電話で報告した時のことです。「この度、無事に65歳まで勤め上げ、退職することができました。これまで、激励、応援くださりありがとうございました。」と伝えたところ、「それはおめでとう。でも、君が一番にお礼を言う相手は、40年間、君を支えてくれた子どもたちであり、多くの保護者、教職員の方だよ。その方々に感謝の気持ちを表さなければいけないよ。」との言葉が返ってきました。
思えば、担任としてこれまで関わってきた子どもたちは(1学級平均35名として)、約1,100名。そのご家族(両親)は、約2,200名。地域の方(1地域平均30名として)は、約1,200名。教職員(学校平均40名として)は、約1,600名。合計すると約6,100名にもなります。これはあくまでも直接に関わってきた方々であり、間接的に、また気づかずに関わった方々を入れると、実におびただしい方々の“恩恵”があったのを感じます。今後の人生は、その方々や世のため人のために“恩返し”する番だと思っています。

 人を育てることは、時には母の様に慈愛深く、時には父の様に厳愛ある言葉をかけることが必要でしょう。そして、底流には“その人を自分以上に育てる”という、止むに止まれぬ心情が横溢(おういつ)と脈打っているのではないでしょうか。人が育つことなくして、社会の未来はないのですから。心から励ますことの大切さが叫ばれている、コロナ禍の今だからこそ、そのことをしみじみと実感する昨今です。
では、人が育つ為には、具体的にはどのようにすればいいのか。一つは、“若い人を大事にする”という職場の雰囲気をつくることです。教育現場では、子ども中心の学校づくり、組織や団体にあっては、後輩を大事にする職場の雰囲気づくりに努めていくことだと思います。二つ目は、先輩・同僚・後輩が、互いに成長し合うという“絶妙な関係”を築くことです。後輩は先輩を尊敬し敬う、先輩は後輩を自分以上に成長させるという心情をもつ。そして、同僚同士は横の連携を密にして成長し合い、切磋琢磨し合うことでしょう。三つ目は、自分自身が育つことなくして、人は育たないという、“教育は共育”の考え方を浸透させることです。“教育は共育”の温かい雰囲気がその組織・団体を包み込んでいるところに、人は育つのではないでしょうか。

 私は幸いにも、かつての先輩や同僚・後輩の方々(すでに退職された方や現役の方)と今でも、手紙やメールでのやりとりを通じて交流させていただいています。ありがたいことです。これからも、その方々と“共に成長し続けたい”と願っています。

<古代中国の格言>
1年の利益を考えるならば、穀物を植えることが、10年の利益を考えるならば、樹を植えることが、そして、もっと永続的な利益を考えるならば、人材を育てることが一番だ。
(勝)

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