小学校6年生頃だったと思いますが、私は小学校の図書室で一冊の本に出合いました。残念ながら題名は覚えていませんが、数学者の秋山 仁さんが書かれた本でした。その1冊の本、たまたま偶然出会った、無造作に手にしたその本が、私に魔法をかけたのです。
ピタゴラスの定理、オイラーの多面体定理、・・・。そこには、それまで聞いたこともない言葉や図面が、子どもでも分かるようなやさしい解説付きで載っていました。特に算数が好きだとか、得意だとか、私はそういう子どもではありませんでしたが、とても強い衝撃を受けました(今でも秋山 仁さんの名前を憶えているくらいなので)。たちまちその本の虜となり、ワクワクしながら食い入るように読んでいきました。本では、例えばピタゴラスの定理を使うとどんな問題が解けるのか、まるでクイズのように紹介されていました。子どもにとっては少し難しい、しかし、頑張れば謎解きができるかも知れないそのクイズを、懸命に解き明かそうとしていました。今思えば、それがきっかけで数学が好きになり、解き方をひらめくことの楽しさを知ったのです。
中学生となり、当時必死に考えていたことの一つが「三角形の三辺の長さから面積を求める方法」でした。何ヶ月も考え抜いた結果、ある日ひらめきが起こり、それを公式にして数学の先生に見てもらいました。その時、「ヘロンの公式」というのがあることを聞かされました。答えにたどり着くまでの解き方こそ違いますが、結果は同じものだったのです(ヘロンは三角関数を用いていましたが、私はまだ習っていなかったので別の方法を用いました)。
私の拙い思い出ばなしはともかくとして、子どもの純粋な好奇心に火をつけることが、学びのサイクルをまわすことに深く関わっていると思えてなりません。きっかけは、一人一人異なることでしょう。例えば、大自然の中で目の前に現れた一匹の昆虫かも知れません。先生からかけられた励ましの一言かも知れません、私のように1冊の本かも知れません。何がどんなタイミングで子どもの好奇心に火をつけるかは分かりませんが、共通しているのは、子どもたちが「知らなかったことを知る」ことから始まるという点です。新たな知識を身につけた時、子どもたちの学びのサイクルがグングンまわり出すのではないでしょうか(学びのサイクルについては、世の中にさまざまな考え方がありますので、そちらをご覧いただければと思います)。
思わず身を乗り出してしまう、その先の「何か」を確かめたくなる──子どもたちが「知る」ための行動を無意識のうちに起こす環境をつくるのは、大人たちの役割だと思います。子どもたちの「自主性」「積極性」「感受性」に働きかける環境づくりは、可能性を拓く上でとても大切なことだと考えます。大人たちの適切なサポートと、生き生き伸び伸びすごせる環境づくりが、子どもたちの笑顔につながることを願っています。子どもたちが一歩前に踏み出すきっかけとなる「魔法」を、あなたもかけてみませんか?(志)