挑戦の夏

 学校は1学期が終了し、夏休みに入りました。1学期は年度始めということもあり、何かとご苦労も多かったことと思います。校長先生をはじめ教職員の皆さま、本当にお疲れさまでした。夏休みに入って子どもたちは毎日登校しませんが、先生方は新学期に向けた授業計画を立てたり、教材を準備したりと、何かと忙しいことでしょう。それでも、時にはゆっくりと英気を養う時間を取っていただければと思います。また、夏休みは“研鑽の夏“”鍛えの夏“でもあります。日頃できないことに挑戦してみるのも良いですね。

 私が校長を務めていた小学校では、教職員が子どもに寄り添った教育活動に尽力する校風がありました。特に先生方は“教師は授業で勝負する”という信念を持ち、“どんな子でも分かる授業“を実践するために研究・研鑽に汗を流していたことが、今でも懐かしく思い出されます。

 ある年の夏休みにさしかかった日、私は熱い思いを込めて先生方に訴えました。
 「長いようで短い教師人生です。皆さんのこれだけの教育実践を記録に残さないのは、大変もったいないと思います。日頃の素晴らしい実践を論文にして、市の教育研究会が募集する教育論文に応募してみてはいかがでしょうか。私も精一杯、応援させてもらいます」

 それに応えるように、S先生は夏休み期間を活用し、自らの教育実践を論文にまとめました。苦労して書き上げた論文を、元校長のT先生に繋ぎました。T先生は私の先輩であり、論文作成のスペシャリストとも言える存在です。その後、S先生はT先生の指導を受けながら論文を仕上げました。応募の結果、見事に賞をいただくことができました。
 S先生の入賞が契機となり、翌年にはY先生が、さらにその翌年にはA先生がそれぞれ応募して賞をいただきました。いずれも夏休み期間を活用して教育実践をまとめ、T先生の指導を受けながら仕上げた論文です。それらが3年連続で入賞したことは、快挙と言える出来事でした。論文を書き上げた3名の先生方には、深い敬意と称賛の気持ちでいっぱいです。そして、指導してくださったT先生には、今でも変わらぬ敬意と感謝の気持ちを抱いています。

 この3名の先生方の論文テーマは、次の通りです。
 S先生:「読書指導と言語活動との関連を図り、伝え合う力を育む」 ─ くらべて、よんで、つたえて、ひろめる ─
 Y先生:「一人ひとりに居場所のある学級づくり」 ─ Y君、K君を中心にした歩み ─
 A先生:「科学的な思考を活かした学級経営」 ─ 自然現象の美しさや不思議さにふれあうことを通して ─
 2010年代前半の論文ですが、現在の教育課題に通じるものがあると感じます。

 この快挙を学校の歴史に残すために、3名の論文を『教育研究会入選論文集』としてまとめました。その論文集は今でも手元に大切に保管しています。その後、3名の先生方が、“子ども中心の学校づくり”や“子どもに寄り添った学級づくり”に、より一層奮闘されているのは嬉しい限りです。
 多忙な日々の中での論文作成には、気力と体力が必要です。そして、なによりも子どもへの深い慈愛の眼差しがなければ、論文完成にたどり着くことはできないでしょう。だからこそ、論文にまとめる過程が自身の教育観を深め、高めていくと言えます。また、それを土台にして、新たな自身の課題に挑戦する姿勢も生まれてくるのです。こうして深まり高まった教育観は、すべて子どもたちに還ってくると痛感します。教育実践を論文としてまとめることは、全て“子どもたちのため”であると言えるでしょう。論文作成に限らず、スポーツ、芸術、読書、また研修会などのさまざまな機会で挑戦したことは、すべて子どもたちに還ってくると確信しています。この夏を、“子どもたちのための挑戦の夏”としてみてはいかがでしょうか。

 酷暑が続く真夏の中で、枝葉をいっぱいに広げてずっしりと立っているクスノキ。その雄姿は、連日の暑さにも負けず、“子どもたちのため”に挑戦し続ける先生方のようです。

 ~ 子どもたちのために流す汗が、尊く輝いて見える日 ~  (勝)

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